2025年3月24日月曜日

パリ訪問記【雑記】

 人文学科の栗田(西洋近代美術史・博物館学)です。

 春休みを利用し、科学研究費の調査のためパリに1週間ほど滞在することができました。

 3/7(金)にパリに到着し、翌土曜日から活動を始めました。

まずはルーヴル美術館の展示を67年ぶりに見に行きました。専門としている17世紀フランス絵画の展示室は担当学芸員が変わったのでしょう、展示の順序が大きく変わっていました。これまでは、17世紀の展示室は世紀初頭のカラヴァッジョ派から始まっていたのですが、現在はフランス17世紀を代表する古典主義の画家ニコラ・プッサンの傑作を精選して最初に部屋にまとめてあったのが印象的でした。その後のフランス・アカデミー絵画の展開にいかにプッサンが重要であったのかということもあるのですが、プッサンという画家がアカデミズムの枠を超えた個性的で創造的な画家であるかを知らしめようという意欲がうかがえました。

その後はイタリア美術の展示室である大回廊に足を運び、《モナ・リザ》に挨拶しました。さらに大回廊の端で開かれていたチマブーエ展を見学しました。チマブーエは13世紀に活躍したプロト・ルネサンスの巨匠で、ルーヴルにはイタリアのアッシジにあった《荘厳の聖母》が収蔵されています。今回の展覧会はこの作品の修復記念で開かれたもので、この作品が歴史的、文化的にどのように位置づけられるかが関連作品との比較を通じて手に取るようにわかるようになっていた好展覧会でした。

日曜日はやはり久方ぶりのオルセー美術館へ。展示の基本構成は変わっていませんでしたが、ところどころに新コーナーが設けられており、興味深かったです。ローマ賞コンクールの構図習作がまとめて展示してあったり、現在では評価されなくなった大型のアカデミズム絵画を展示するコーナーが設けられたりと、等身大の美術史を再構成する意欲が強まっていることが改めて感じ取れました。もちろん5階の印象派からポスト印象派へ続く展示室を埋める傑作の数々には圧倒されっぱなしであったが。夕方は、近隣のオランジュリー美術館に足を運び、睡蓮の連作も見学できました。



月曜日からは本格的に調査開始です。まずは旧知のルーヴル美術館の17世紀担当学芸員ニコラ・ミロヴァノヴィッチ氏と学芸員室で面談しました。コロナ禍の2022年に日本で行われたあるシンポジウムにオンライン参加して頂いた方で、この年の秋にフランスで開催された「プッサンと愛」展には小生がエッセイを寄稿させていただきました。その後先述の17世紀フランス絵画の展示室に場所を移し、とりわけプッサンの諸作品の前で、あーだこーだとそれぞれの意見を交わしました。遅めの昼食を一緒にとったのちにお別れし、小生は再びダヴィッド、ドラクロワらの絵画が陳列されているルーヴルの19世紀大型絵画の展示室に向かいました。最新の『人文学フォーラム23号で取り上げたダヴィッドの《ホラティウス兄弟の誓い》も改めてじっくり観察しました。

火曜日はルーヴルの休館日で、絵画部資料室を訪れ、関心のある作家作品について文献資料をチェックしました。水曜日は再び絵画部資料室を訪れる共に、閉まっていたルーヴルの展示室をいくつか回りました。

木曜日は、お目当ての作品を見に、パリから日帰りで弾丸フランクフルト遠征(片道4時間)を敢行しました。シュテーデル美術館に所蔵されているプッサン作《ピュラモスとティスベのいる嵐の風景》を熟覧するためです。この作品は調査の中心作品の1つで、『跡見学園女子大学文学部紀要』59‐60号にもこの作品についての記事を寄せています。最近ではネット上にもかなり高精細な画像が提供されていますが、細部や色合いは実物で確認しないと誤解が生ずることがあります。今回も写真ではややあいまいであった前景に描かれたピュラモスの流血の様子も手に取るように確認することができました。ガラスがはめられていなかったことも幸運でした。



同館では企画展「レンブラントの時代のアムステルダム:黄金時代なのか」が開催中でこれも見学できました。そこには、レンブラントの《サムソンとデリラ》や《デイマン博士の解剖学講義》が出品されており、レンブラントの迫真の描写力に舌を巻きました。


あっという間に最終日となり、金曜日はそれまで閉まっていて見られなかったルーヴルの展示室をのぞき、ポンピドゥーセンターに向かいました。残念ながら改修工事のため常設展は閉まっていましたが、企画展として女流画家シュザンヌ・ヴァラドンの大回顧展が開催中でした。

パリ滞在中はやや風邪気味でしたので、無理をせず見学場所を限りました。とはいえ所定の調査の大半はこなすことができたので、さらに研究を深めていきたいと思います。また、西洋美術史Bの授業内容も今回の滞在で入手した情報でアップデートし、受講生の皆さんにいっそう楽しんでもらえるようにしたいと思います。

土曜日にパリを経ち、翌日曜日に日本に帰国し、火曜日には卒業式に列席しました。

次年度は《ピュラモスとティスベ》に描き込まれた建築のあるローマを中心に調査ができればと思っています。実現したら、また訪問記をお届けします。