2025年5月17日土曜日

【新刊紹介】『アンドレ・フェリビアン「王立絵画彫刻アカデミー講演録」註解』

人文学科の栗田(西洋近代美術史、博物館学)です。

このたび、共編訳者として『アンドレ・フェリビアン「王立絵画彫刻アカデミー講演録」註解』を中央公論美術出版から刊行することができました。公益財団法人鹿島美術財団の「美術に関する出版援助」を受けての出版で、助成に心より感謝申し上げます。

もう一人の共編訳者は慶應義塾大学教授の望月典子氏で、『ニコラ・プッサン: 絵画的比喩を読む』(慶應義塾大学出版会)のご著書で知られています。共訳者には、それぞれフランス近世美術の研究で学位を取得された倉持充希、太田みき、福田恭子、小林亜起子、船岡美穂子の各氏に加わっていただきました。この講演録はフランス美術の最重要文献の一つで、1740年には英訳が出ています。近年関心が高まっており、2001年には独訳が、2020年には英語の新訳が出ています。

 フランスの王立絵画彫刻アカデミーは1648年に設立されたもので、ルイ14世の親政開始後の1663年に王室の財政的な支援を受けるようになってその活動が活発になりました。

重商主義政策で知られる太陽王の重臣コルベールは、王室の名声を高めるべく文化政策にも力を入れ、美術アカデミーにも様々な指示を与えました。その中の一つが王室のコレクションを活用しての講演会で、後進の育成に役立つ上達の秘訣をまとめさせようとしました。

講演録の編纂を任されたのが国王歴史編纂官のアンドレ・フェリビアンで、手工的技術としてさげすまれてきた絵画・彫刻の技芸を知的営為としての自由学芸に格上げするために展開された講演録の「序」の議論は有名で、とりわけ歴史画を頂点とする「ジャンルの序列」の理論はその後のフランス美術史の展開に大きな影響を及ぼしました。

 講演会が開始された1667年には7回が開催され、古代美術からは彫刻「ラオコーン」、前世紀の美術からはラファエッロとティツィアーノとヴェロネーゼが、当代の美術としてプッサンが取り上げられました。「序」には翌年の第1回講演会の内容に言及があるので、本書では補遺として第8回講演会も加えました。

各翻訳には詳しい注釈と解題を付し、読者の便宜を図りました。また解説として小生の「アンドレ・フェリビアン『王立絵画彫刻アカデミー講演録』(一六六八年)」と望月氏の「アンドレ・フェリビアンと美術批評」という二つの論考を掲載し、本書の意義が浮かび上がるようにしました。また、講演録の理解の一助となることを念じて、巻末には付属資料として美術アカデミーの規約集の翻訳を掲載しました。

 各講演を担当したのは国王首席画家シャルル・ル・ブランをはじめとする美術アカデミーの画家や彫刻家たちで、実制作者ならでは観点から多面的な分析が試みられています。毎回、基調講演の後に討論が繰り広げられており、当時の芸術家たちの間でどんなことが関心の的であったかがわかります。

 あるフランス語読書会でこの講演録の翻訳に取りかかったのは約25年前に遡りますが、長い中断を経て、新たに優秀な翻訳チームを組んで翻訳を完成できたことは感慨深いです。本書を通じて日本におけるフランス近世美術の理解が少しでも深まっていくことを祈念しています。



書誌情報

『アンドレ・フェリビアン「王立絵画彫刻アカデミー講演録」註解』

(共編訳:栗田秀法・望月典子、共訳:倉持充希・太田みき・小林亜起子・福田恭子・船岡美穂子)

中央公論美術出版、2025年(ISBN 978-4-8055-0997-5)

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